ギタリスト

自称ギタリストのおっちゃん

私が20代前半の頃の話です。

 

自称スーパーギタリストという変なおっちゃんと知り合いになったことがありました。

 

親しみを込めておっちゃんと呼ばせてもらってましたが、

 

自分に父親よりも年上の男性でした。今はどこで何をしているのかわかりませんが、ふと懐かしくなったので書いてみようと思います。

 

 

そのおっちゃんとは新大久保という東京の町で知り合いました。

 

新大久保というのは東京の新宿区にある地名です。

 

昔から韓国系のお店が多いコリアタウンとして知られていましたが、今はさらにすごいことになっているようですね。

 

 

新大久保にちょっとしたライブができるバーがあり、私はそこでアルバイトをしていました。

 

お酒が飲めないくせに、バーでアルバイトしていたのでお客さんによくからかわれたものです。

 

そのおっちゃんも、最初は私をからかって遊んでいた1人でした。

 

 

おっちゃんはそのバーの常連で、私が勤めだす3年ほど前からよく来るようになったんだそうです。

 

いつも1人で、ギターを抱えてお気に入りのバーボンをちびちびやりながらお店の片隅でギターをポロポロやる、という人でした。

 

 

お店のマスターも常連さんもそのおっちゃんがギターをつまびくことを容認していて、
ちょっと煩いときがあっても「いいぞいいぞ」と調子に乗せて遊んだりしていました。

 

私はその雰囲気がとても好きでしたね。

 

おっちゃんは酔うといつも「俺はスーパーがつくギタリストだ。

 

そんじょそこらのギタリストと一緒にされちゃ困る」ということを言っていました。

 

マスターは笑ってスルーしていましたが、私はそうなんですねーと真に受けて話を聞いていました。

 

おっちゃんのギターの腕は確かなもので、酔っていてもとても味のあるいいギターを聞かせてくれたのでした。

 

なので私は、おっちゃんの話をひとつも疑いはしませんでした。

 

ふとした時に、今頃何をしているのかなあと思い出したりします。


2.おっちゃんの武勇伝

自称スーパーギタリストのおっちゃんとの話です。

 

 

おっちゃんはよく武勇伝を私に話してくれました。若い頃のギターにまつわる色々な話です。

 

 

例えば、場末のバーでいつものように飲んでいるといきなり隣の客同士がケンカを始めてしまいました。

 

 

黙って聞いていたおっちゃんでしたが、居てもたってもおれなくなり仲裁に入りました。

 

 

ジャマするな!と客の1人から押し倒されて、後頭部を強打。

 

そのまま頭から出血してしまったんだそうです。暗い店内でしたが、それでも周りのお客さんが気づくほどの出血。

 

こりゃいかんとお店のマスターが救急車を手配。

 

それが来るまでの10分程度、おっちゃんは椅子に座ってギターで弾き語りをして、ケンカしていた二人を仲裁したのだそうです。

 

 

恐らく、恐らくは、大量の出血を見てケンカしていた二人も血の気が引き、ケンカどころではなくなったというのは仲裁の真実だとは思います。

 

しかしおっちゃんの中では「怪我をしながらギターでもってケンカを仲裁した武勇伝」ということになっているのです。

 

私はこの話を10回は聞きましたが、
いつも酔っ払いながら話をしてくれるので登場人物が所々入れ替わったり、
バーがスナックになったり、後頭部がこめかみになったり、それくらいのマイナーチェンジは余裕でありましたね。

 

 

その話をしている時のおっちゃんは、いつになく「輝いている」ような気がして見ていました。

 

多分このおじさんは寂しいんだろうなあ、なんて思ったりしていました。

 

20歳そこそこの若造にそんな心配されてしまうおっちゃんもおっちゃんですが・・・。

 

そのほかにもたくさんの武勇伝を話してくれましたが、正直あまり覚えていません(笑)とにかくその場が楽しかったことだけは覚えています。

 

またいつか長い長い武勇伝を聞ける日はやってくるのでしょうか。

 

とにかくずーっと飲んでいるおっちゃんでした。


3.おっちゃんの正体

私はバーで4年程勤めていましたが、その間ほぼ会っていたおっちゃんの正体を最後まで知ることはありませんでした。

 

 

なんとなくこんな仕事をしていて、家族構成はこうで・・・というのは掴めていたのですが、はっきりと断定できる証拠はありませんでした。

 

 

マスターも「誰だといわれると、ちょっと困るかな」という感じの人でした。

 

 

つかみ所がない、というわけではないのですがとにかくおっちゃんのしゃべることといえば、昔の武勇伝ばかりなのです。

 

 

しかも20年も30年も前の話をするわけですから、当時のことを知る人もいないわけです。

 

 

デタラメを言ってもわからないと、適当に話すことも出来たわけですね。

 

 

その一方で、そんなに安いわけでもないバーにほぼ毎日通うおっちゃんを見て「実は結構な仕事をしているのではないか、
もしくは資産を持っているのでは」と憶測を立てる人がちらほらいました。

 

 

マスターもその可能性はあると常々話をしていました。

 

 

例えば代々ずっと地主で、アパートや土地を貸して生計を立てているということもありうるからです。

 

しかしおっちゃんの口から語られる武勇伝の中には、
昔ホームレスをしていたころの話や借金取りに追いかけられて首を絞められた話、電車のホームで自殺を考えた話などが出てきます。

 

 

まったく武勇伝ではありませんが、その話が本当だとすると、資産家の線は薄いと考えるべきなのです。

 

 

とすると、実はかなり名のあるギタリストなのでは?と言い出す人も現れる始末。

 

ミュージシャンの誰々は知り合いだとか、
昔よく一緒に飲んだとか、そういう話もおっちゃんはよくしていました。

 

 

結局のところ、どれが本当でどれが嘘なのか。

 

全て真実でもおかしいし、全て嘘でもおかしい。

 

なぞに包まれたおっちゃんのままで、私はサヨナラすることになりました。

 

きっと今でも世界のどこかで、ギター片手にバーボンを飲んでいると思います。

 

今宵もおっちゃんは夜の街に繰り出すのでしょうか。


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